3100マイルレースの体験〜5000キロ完走と瞑想

by Harashita Sunaoshi

 

セルフ・トランセンデンス〜自分超え・瞑想・幸せ〜

シュリ・チンモイの哲学の大事な柱の一つは「自分を超える(セルフ・トランセンデンス)」です。昨日の自分を超えていくことで幸せと充実感のある人生になると言っています。私たちは常に成長していく存在なので、自分を超えることは外的にも内的にも必要です。それにはもちろん努力と決意が必要ですが、その道のりをより早く、確かなものにしてくれおおいに助けてくれるのが瞑想なのです。今日はこの「自分超えと瞑想」について、先日行われたオランダのプラディープ・ホウガッカーさんによる3100マイルレース完走の体験トークを振り返りながら書いていこうと思います。

幸せで充実した人は周りにもその空気が伝わり、その人の試みている「自分超え」からインスピレーションを受け、「自分も頑張ろう」と思わせてくれる良い影響力になります。それが世界を昨日よりもうちょっと良い場所にする助けになるのです。何か新しいことや限界に挑戦している人はとても輝いていて素敵ですよね。

 

外的セルフ・トランセンデンスと内的セルフ・トランセンデンス

外的なセルフ・トランセンデンスは目で見て比較的わかりやすいものです。例えばスポーツをする人だったら前より自己ベスト記録を上げる、チームスポーツでいつも予選落ちしていたら決勝に残るまで行った、アーチストだったら1曲しか持ち歌がなかったのに10曲作曲できた、今までになかったスタイルを自分の絵に取り入れてみた、視野を広げ他の分野の人とコラボしてみた、などなどです。

この「自分超え」は内的にも当てはまります。内的なセルフ・トランセンデンスは、例えば怒りっぽい人だったら、前は怒っていた状況で落ち着いていられるようになった、とか、せっかちな人だったら行動しつつも忍耐強く「その時」を待つことができるようになったとか、心配性だったら前ほど不必要にあれこれ心配しないようになったとか、人の悪いところを見てしまう癖のある人だったら、前よりその人のいいところに気づくようになったとか色々です。

好きなことや才能は人それぞれだし、内的に持っている性格や弱いところも人それぞれです。だからそれぞれがその時に直面している自分超えの課題も様々。でも共通しているのは、それまでの自分を超えた時に感じるなんとも言えない充実感です。さらに言えば、外的セルフ・トランセンデンスと内的セルフ・トランセンデンスはリンクしていて、両方関連して起こることが多いようです。外的に自分の限界に挑戦することで、その過程・経験を通して内的にも成長したという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。反対に内的に自分の弱いところを何か克服したら、それがそれからの自分の行動全てに反映され、結果的に前はできなかったことが外的にできるようになったり、外的な壁を乗り越えることができるようになったりします。

 

3100マイルレース完走の体験〜プラディープさんのスペシャル・トーク

さて、本題です。以前からお知らせしていたように、シュリ・チンモイ マラソンチームの主催する「セルフ・トランセンデンス 3100マイルレース」の数少ない完走者の一人、オランダのプラディープ・ホウガッカーさんが先週京都を訪れ、10月17日(火)の夕方、ウィングス京都でスペシャル・トーク(無料)を開催しました。当日は雨模様でしたが、是非話を聞きたいという方が何人も来てくださり、とても良い会になりました。私も通訳としてお手伝いさせていただきました。

プラディープさんは自分で用意したスライドを見せながら、このレースについて、自分がこのレースを走るようになったきっかけ、レースまでの準備、実際のレース中の体験、終わってから、などを自分の瞑想体験と絡めつつたっぷり2時間近くお話ししてくれました。ここではその内容を簡単に追ってみたいと思います。

 

3100マイルレースの概要

シュリ・チンモイ マラソンチームは世界中でウルトラ(超長距離)含め様々なランニングイベントを開催していますが、その中の最高峰がこの3100マイルレースです。世界最長公認レースで「超長距離レースのエベレスト」と評されており、欧米では特にここ数年、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルなど主要メディアで毎年取り上げられています。

まず距離ですが、1マイルは1.6kmなので、3100マイルは4989km、約5000kmです。これを52日間で完走するというレースで、単純に割り算すると1日平均95.9kmを走り続けないといけません。これは1日フルマラソンを2回強走り続ける計算です。(プラディープさんが走った2011年は猛暑のため制限日数が54日間に延長されました。)これをニューヨークのクイーンズ地区にある学校の周り一周880mの周回コースで行います。完走するにはここを5649周しなければならないのですが、コースは朝の6時から夜中の12時まで開いていて、その時間中に走ります。

これだけ走るのですから、消費カロリーも生半可ではなく、1日7000~10000カロリーを摂る必要があります。コンクリートの上を走り続けるためシューズも10足から12足履き潰すということです。6月から8月の夏の盛りに行うため、平均気温は30度、暑い時は40度を越す時もあります。湿度も高く、平均80〜95%になります。これまで21回このレースは行われましたが、完走者は2017年のレース終了時点で41名(うち女性8名)、この中にはリピーターも多く、13回完走したという強者もいます。現在の世界記録保持者はフィンランドのアスプリハーナル・アールトさんで40日と9時間で完走しています(1日平均123km走った計算です)。

5649周なんて、飽きないのかと皆に聞かれるそうですが、それはないそうです。それどころか、ウルトラレースでは周回コースはよくある話で、幾つか利点があります。一つは自分のテーブルにサプリメントや食べ物など自分の持ち物を置いておけるので、そこにすぐアクセスできて便利なこと。もう一つは、トップのランナーから最下位のランナーまでみんなで一緒に走っているという一体感があることだそうです。このレースで一番大事なのはこのランナー同士の一体感・絆だということです。お互いに励ましあい、ジョークを飛ばしあいながら笑いあって一緒に走っている感満々でいくそうです。

 

レース参加のきっかけと準備

こんな並外れたレースですから、参加するにも並外れた準備が必要です。プラディープさんは参加に至った経緯をこのように述べています。まず、瞑想を何年もするうちに、心のワクワク感を大切にして、もし強い心のワクワク感を感じたら、それに従って行動するのが肝要だということを覚えていったこと。そしてある時いい走りをして瞑想していたら、3100マイルレースのことが胸に浮かび、ワクワクしたこと。その後実際にヘルパーとしてレースに何回か参加し、ランナーから色々コツを教わったそうです。ヘルパーというのはランナーの色々なニーズを助ける存在で、精神的にも時間的にもとても助けになる存在です。例えばドリンクやフードを何種類かピックアップしてランナーが戻ってきた時すぐに好きなものを取れるようにスタンバイしていたり、マメの手当てを手伝ったり。ポジティブな状態で居られるように勇気付けたり。きっとこのような時間をレースで過ごす中で、何年か後に走る自分の準備を整えていったのでしょう。

準備期間には6年を要したそうですが、このようにヘルパーとしての経験、現役ランナーからのアドバイスのほか、走る点でももちろん準備しました。長い距離に慣れるため、1日10km~15km走り、週一でフルマラソン (42.195km) の距離を走り、月一でそれより長い距離最高100kmくらいを走ったそうです。また、自分にはどんなシューズがあっているのか、ウエアはどうか、など色々試したそうです。走りながら食べる練習もしたそうです!そう、このレースでは常に動いて距離を稼ぐ必要があります。なので食事もちょっとずつ、走りながら、動きながら摂るのです。

もちろん、瞑想の時間も前より長く取るようにしたそうです。瞑想とは自分の奥深くの無限の可能性とコンタクトを取る術です。3100マイルを走りきるには、もちろん最大限のトレーニングをしますが、いつもの自分の領域を超える可能性を秘めたところとなるべく繋がって居られるようにすることがとても重要になってきます。

 

レース中の体験

いよいよレース本番!プラディープさんは、最初の10日間が一番しんどかったと言います。なぜなら、体も心もこんなに長い距離を走り続けることに慣れていないからです。体が1日100kmコンクリートの硬い路面を走り続けることにも、暑い気候にも慣れていないので、夜身体中が痛み眠れなく、頭では「こんな状態でどうやって明日走れるんだろう?」と考えてしまい、ますます眠れない夜を過ごすのです。でも最初のその時期を過ぎて数週間するとわかってきたそうです。たとえ眠れなくても、自分の中の何か、より高い部分が回復してくれ、次の日ちゃんと走れると。

足はマメだらけになり、他にも故障を経験します。コースにはマッサージ師や看護士、医者などが詰めていてそれぞれの問題に応じて即応してくれるのですが、レース中盤以降の方が回復が早くなったそうです。普通は休んで怪我や故障を治しますが、このレースでは走りながら治すのです。

内的にもいろいろあったようですが、自分の弱いところが嫌でも前面に出てくるそうです。例えばプラディープさんは、「自分はなんてかわいそうなんだろう」と思う癖があることにある時気付いたそうです。で、それを乗り越えないといけませんでした。逃げるわけにも無視するわけにもいかないところがこのレースのキツイところでもあり、同時に素晴らしいところでもあります。というのも、自分の弱みを乗り越えた時の喜びと充実感は格別だからです。

 

レース後半の素晴らしい体験

何と言ってもレースの後半が素晴らしかったそうです。瞑想では、自分の奥深くにある魂を感じようとするものですが、日常生活ではなかなか実感できないものです。プラディープさんはその理由として、内的に求めて切実な叫びを胸の奥に持つことが日常生活ではあまりない(そういう必要に迫られない)からではないか、と言っています。自分の奥深くのより知恵深い存在、より大きな存在の魂の助けを真に求める必要は日々の生活では確かにあまりないかもしれません。危機迫る状況にもあまりならないし、ものすごい充実感はなくても、人生そんなもの、と過ぎていってしまいます。

でもこのレースは毎日、毎時間、毎周、自分の限界を超える必要に迫られます。そんな状況で、心の奥底から、切実に魂の助け・導きを求める中、レース後半になったら、魂が前面に出てきているのを感じつつ走っていたそうです。喜びにあふれ、実際スライドの写真もレース前半よりとってもリラックスし良い顔をしています。他のランナーもそうです。

周りのみんなだけでなく、すべてと一体感を感じたそうです。(これはとても高い瞑想状態で得られる体験です。)ある日走りつつ昇る日を見ていたら、自分の心の中で日が昇っている感覚になったそうです。そして「これが人生だ。」と感じたと言います。普通は「自分は基本身体の存在で、時々精神的なことに注意を払う」という状態が多いと思いますが、レース後半は、「自分は基本魂(精神的存在)で、身体に宿って生きているんだ。」と実感したそうです。

そのうちトップのランナーから次々ゴールしていくのですが、それを本当に嬉しい一体感の気持ちで見送りつつ自分は走り続けたそうです。走り終わったランナーも次の日またコースに現れ、他のランナーを応援したそうです。そしていよいよ自分の番になりました。53日9時間でゴール!テープを切った写真は本当に安堵して平和に満ちて嬉しそうな表情です。

 

レース後とこれから

レースが終わっても、レース中にした素晴らしい経験は自分の中にずっと残ります。そして以降の目標はレース中に感じた魂、一体感の心をどうやって毎日の生活で持続するかということだそうです。一つ実感したのは、幸せというのは何か特定のものを手に入れることではなく、前進・成長することにあるんだ、ということです。

これからの目標の一つとして、この体験をいつか本にまとめたいと言っていました。その時は是非読みたい!と思っています。

 

KBSラジオインタビュー

このトークには、市民ランナーを励まし続けてきた特別な方が来てくださいました。それは「走るパーソナリティ」で知られる通称わかちゃん、市民ランニング界のおなじみ若林順子さんです。プラディープさんの話にとても感銘してくださり、後日若林さんのラジオ番組であるランナーのためのLet’s Run (KBSラジオ毎週日曜15:00~15:10) でインタビューしてくださいました。10月17日オンエアで、番組の時間全部を割いて紹介してくださいました。インタビュー内容と写真が番組のブログに載っています。

ご自身も100kmまでのウルトラ経験を持ち常に走ってらっしゃるのでプラディープさんの直面した色々な経験にランナーとしてとても共感してくださり、特に「ハートのワクワク感を大事にすること」「常に自分を超え続けること」「幸せとは前進すること」を魂に響くメッセージとして受け取ってくださったようです。本当にどうもありがとうございました!